鉱物の化学実験(2)



  (1) 硫酸塩鉱物の実験:

  @ 天青石の実験: 有毒ガス発生注意!  ストロンチウム塩類の主な原料となる天青石(セレスチン、硬度3−3.5、比重3.96、青みがかった白)は、硫酸ストロンチウム(SrSO4)を主成分とする、砕きやすい脆い鉱物である。(このSrの代わりに、他のアルカリ土類金属の Ca が入ったものは石膏(ギプサムgypsum、CaSO4・2H2O)、硬石膏 (CaSO4)、Ba が入ったものは重晶石(バライト、BaSO4))

  この硫酸根は、アルカリ土類金属との結合力が強いので除きにくい。 精錬方法は、まずコークスや木炭などの炭素で 空気を遮断して強熱して還元し、硫化物としてから酸で浸出する。
  実験での加熱はマッフルを用い かなり強熱する必要がある。(* 天青石の還元反応は、粒子内に拡散が進むように、高温にしなければならない。 ** 酸を加えるとき、有毒・悪臭の硫化水素 H2S が発生するから、戸外で行い、決して吸い込まないように風向きに気をつける。(あるいはドラフトで行なう) 最後は加熱して煮沸して硫化水素を完全に追い出す。)
  この浸出液をろ過して、苛性カリで中和し、炭酸カリウム水溶液を加えると、炭酸ストロンチウム(SrCO3)が沈殿する。(重曹で中和すると、水溶性の炭酸水素塩ができて沈殿が不完全になる。) この炭酸ストロンチウムは他のストロンチウム塩の原料となる。
  ストロンチウム塩の炎色反応は 輝度の高い深紅色であり、花火や発炎筒(”発煙筒”ではない)に用いられる。

    SrSO4 + 4C → SrS + 4CO↑(約900℃)、   SrS + 2HCl → SrCl2 + H2S↑、   SrCl2 + K2CO3 → SrCO3↓ + 2KCl



  A 重晶石の実験: 有毒ガス発生注意!  重晶石(バライト、硬度3−3.5、比重4.5)は、バリウム塩類の主な原料である。 @の天青石と全く同様に、カーボン C と強熱して 硫化バリウム(BaS)とし、塩酸や硝酸で浸出して 水溶性の塩とする。(バリウムの鉱物として毒重石(BaCO3)があり、そのまま酸を加えて可溶化しやすいが資源は少ない。)
  尚、水酸化バリウムの原料となる 酸化バリウムは、炭酸バリウムとコークスを強熱、あるいは、硝酸バリウムを600℃以上で熱分解して作る。 バリウムの炎色反応は黄緑色。

    BaSO4 + 4C → BaS + 4CO↑(約900℃)、   BaS + 2HCl → BaCl2 + H2S↑、   BaCl2 + K2CO3 → BaCO3↓ + 2KCl

 

  (2) ケイ酸塩鉱物の実験:

  @ リチア輝石の実験: ケイ酸塩鉱物は精錬しにくいのであまり鉱物資源として用いられないが、リチア輝石(スポジュメン、クンツァイト; LiAlSi2O6、硬度7)はリチウムの重要な鉱物であり、ペグマタイト(巨晶花崗岩)の隙間に存在して産出する。(他は、塩湖のかん水、海水などの資源。 リチア雲母などは含有量が少なすぎて資源にならない。) リチウム電池の用途が重要で、なおかつ産出国が限られているため、消費国の日本としては資源獲得のため南米ボリビアとの採掘提携を強化している。

  リチア輝石は安定したケイ酸塩で、これから取り出すには、細かく粉砕して、鉱酸で煮出すことを試みる。塩酸で浸出した液はアルミニウムイオン(V)により黄色味がかっているが、炎色反応では赤色になって、明らかにリチウムが含まれている。 リチウムと共にアルミニウムが可溶成分なので、強アルカリにして水溶性のアルミン酸塩にしてから、濃い炭酸カリなどを加えると、溶解度の低い炭酸リチウム(Li2CO3)(1.33g/100ml水)が沈殿してくるはずである。
  (* この実験では、サンプル量が少ないので、炭酸リチウム沈殿の実験はしなかった。リチア輝石1g中、Li2CO3換算で0.2gしかない。
    炭酸リチウムの沈殿の実験 → アルカリ金属の実験(3) 参照 )
 

  (3) クロム酸鉱物の実験:

  @ クロム鉄鉱の実験: クロム鉄鉱(クロマイト、(Fe、Mg)Cr2O4、硬度5.5、比重4.7)は、超塩基性(=SiO2が無い)深成岩である橄欖(かんらん)岩が変成してできた蛇紋岩中に産出する。ステンレスなどの各種合金やめっきに用いられる クロムの主な鉱石で、産出が偏っているので、日本では備蓄が定められている重要な資源である。
  精錬方法は、マンガン(→ 鉱物の化学実験(1)の(1)B)と同様で、鉱石粉末、KOH、KClO3(酸化剤)を弱い赤熱に加熱すると、クロム酸カリが生成する。 工業的には、鉱石と炭酸ソーダを原料としてクロム酸ソーダを作り、酸を加え重クロム酸塩とし、さらに濃硫酸を加え三酸化クロム(Y)(CrO3)を融液分離し、これを還元して酸化クロム(V)(Cr2O3)とし、さらに還元して金属クロム、あるいは、鉄との合金(フェロクロム)を製造する。
 


             1.へ戻る             トップへ戻る